《2010年度・報道資料ファイル》



『《交通論壇》交通基本法における「移動権の保障」を考える 首都大学東京都市環境学部助教 吉田樹』(東京交通新聞2010.12.13)

 先日、国土交通省社会資本整備、交通政策両審議会に交通基本法案検討小委員会が設置され、私も加わることになった。2011年の通常国会提出に向けて同法の制定作業が進められているが、地域交通の現場を渡り歩く筆者にとって、いささか気掛かりな点がある。
権利保障の責務は誰が
 交通基本法の基本理念の一つとして「移動権の保障」を盛り込むかが問われている。基本法という性質から、権利や理念の実現は、国レベルの計画策定(観光立国推進基本法の場合、同法制定の翌年に観光立国推進基本計画が示された)や個別法の整備・改定、財政支援制定の創設などに委ねられる。しかし、今般の交通基本法の場合、同法制定の以前から「地域公共交通確保維持改善事業〜生活交通サバイパル戦略〜」の創設方針が示され、「政策コンテスト」における評価も受けている段階にある。そのため、交通基本法で掲げるべき理念が同事業の内容に規定されてしまう、あるいは、交通基本法の理念が同事業と合致しないことにもなりかねない。
 また、同法に「移動権の保障」を位置づける場合、権利保障の責務を誰が負うのかを明確にしなければならない。地域公共交通確保維持改善事業では地域の協議会に対する支援が想定されており、その点では、現在の活性化・再生総合事業と同様である。ただし総合事業が協議会の構成市町村における計画策定や実証運行が支援対象であるのに対し、新事業は、既存の地域交通サービスに対する支援も対象になる。地域交通のマネジメントは、基礎的自治体と各地の協議会に委ねられることになるのだ。しかし基礎的自治体の責務を考える場合、地域公共交通の経営環境を考慮する必要がある。例えば、ノンステップバスの導入比率は東京など都市部では向上している一方、数台の導入に止まる県もある。交通バリアフリーの推進は、国が目標年次と数値目標を定め、市区町村が設置した協議会で基本構想を策定し、事業を進める方式を採っている。しかしノンステップバスの導入比率に格差が生じたのは、地方公共団体の財政状況はもとより、地方バス事業者の経営環境が厳しいことにも起因する。既にこうした格差が生じている状況においては、「移動権の保障」に関して、国が関与すべき責務は決して小さくないはずである。
掲げるべき理念の中身
 ところで、交通空白地域を生じさせないことが「移動権の保障」であると捉えられがちである。従来の地域交通計画の実務では、鉄道駅や路線バスの停留所を中心とする一定の範囲から外れた地域を交通空白地域と捉え、その解消のためにコミュニティバスやデマンド型交通の導入が試みられてきた。しかし、こうした計画手法には二つの問題がある。一点目は、地域住民の生活活動に「使える」サービスが提供されているかは必ずしも問われないこと。二点目は、障害者など移動制約者のアクセシビリティを老慮していないことである。そして、この二点を考慮した地域交通政策の実現が「移動権の保障」で掲げるべき理念であり、「広く、薄く」サービスを提供することが「移動権の保障」の意図するところではないと考える。その視点において、仮に「移動権」という呼称によって、理念がミスリーディングされるのであれば、交通基本法の条文や解釈、国レベルの計画を工夫することが必要であろう。
個別公共交通の議論も
 活性化・再生総合事業を活用して、市民や来訪者に「使える」地域交通サービスを提供する戦略的な取り組みが各地に芽生えはじめた。交通基本法制定後は、こうした芽生えを成長させる施策(その意味では、過疎地域に的を絞り過ぎた支援策では不十分である)の一方で、タクシーや福祉交通に関しても、地域交通政策に取り込むことが求められる。乗合公共交通は、利用者ニーズの公約数に対応するものであり、個々のニーズには応えきれない。生活活動に「使える」地域交通を計画するためには、こうした個別公共交通の提供方策を議論する必要がある。個別公共交通は、一人あたりの輸送コストが高くなりがちだが、「非流し」のタクシーに関するビジネスモデルを構築するとともに、市民の共助で支えられる移動サービスを組み合わせて対応することが求められる。



『《視点》不備多い有償運送を「適材適所」で改善へ/名古屋大学准教授 加藤 博和』(東京交通新聞2010.10.11)

 有償運送運営協議会は、緑ナンバー事業者のみが有償運送を許されるという大原則の中で、NPO等が有償ボランティア活動の一環として人を輸送することを合法化するために生み出された。道路運送法79条の4にあるように「緑ナンバー事業者では困難」、しかし「地域として必要」な輸送について、協議会における関係者の合意を前提に認めることとしたのである。
 私が名古屋市の協議会会長を拝命して半年間で、協議会や運送のあり方について4回の会議で様々な議論を行ったが、最も争点となったのは運送の対価の設定であった。は「実費の範囲内」「合理的で旅客にとって明確」「営利目的でない」という基準を示した上で、「タクシー上限運賃のおおむね2分の1という「目安」を示し、さらにこれは「上限」ではないという解釈まで示している。
 私は次のように理解している。国は地方分権の観点から、対価についても協議会で決めてもらいたいが、協議会がいきなりその妥当性を判断するのは無理かもしれない。そこで、利潤が発生しえない水準であろう「おおむね2分の1」を「目安」という注釈をつけて示した。しかし、中央集権が抜けきらない運輸業界ではそれがやはり金科玉条となり、それゆえに「おおむね」の範囲がどこまでかでもめるケースも出てきた。これは極めてナンセンスであって、あくまで対価は先の3つの基準にのっとって決めるべきである。
 そこで名古屋市では、2分の1以下の申請は無条件で認め、それを越える場合には実費の範囲内であることを示す理由書を提出し吟味するルールとした。運営団体にとって運送はごく一部の事業なので、その経費のみを切り出して示すことは大変である。しかし「おおむね2分の1」では実費がまかなえないと主張したいのであれば、理由書を出して納得してもううほかない。
 今回、それにチャレンジした団体が1つあった。1度目の理由書は根拠不十分であったため、より詳細な理由書を出していただき、経費算定の妥当性については委員各位のご理解が得られた。しかし、大幅値上げは利用者にとって容認しがたいという意見もあったため、妥協案として、将来の再値上げも視野に入れつつ、今回は実の半分程度の値上げとしてはどうかと提案した。これを申請団体に受け入れていただき、協議会委員各位の合意も得るに至った。時間はかかったが、法秩序を守りつつ利用者など各関係者に大きな不利益を与えることのない結論が得られたと自負している。
 そもそも、福祉有償運送は「緑ナンバー事業者では困難」な運送であって、タクシーとの競合はあり得ない(あるとしたら認めてはいけない!)。一方、公的補助がなければ経費に見合った対価を利用者から徴収する必要があるが、「おおむね2分の1」に縛られるとそれができない可能性がある。加えて、登録に至るまでの諸手続の面倒さもあって、福祉有償運送数は減りつつある。その分は安心安全が保障されない「謝礼」運送に取って代わるか、運送自体がなくなって利用者が困るかのいずれかであると考えられるが、それでよいのだろうか?
 運送の対価の設定のみならず、現行の制度は不備が多い。移動権保障を掲げる交通基本法への流れを踏まえ、地域として必要な福祉輸送を「適材適所」で供給する方法を利用者・現場目線で「走りながら」考え、制度の改善につなげていくことこそ、今後、協議会が果たすペき役割であると私は考えている。(投稿)



『《国交省通知》「無償」運送の範囲拡大/迎車回送分の燃料代、ファミサポ子ども送迎』(東京交通新聞2010.9.6)

 道路運送法の適用外となる自家用車「無償」運送サービスの範囲が1日から広がった。国土交通省はNPOなどの移送ボランティアについて、乗客から金銭を受け取っても有償運送に該当しない対価(料金)の種類に迎車・回送分の燃料代を追加、市区町村のファミリー・サポート・センターによる有料の子どもの送迎も無償扱いにすることを決め、同日、地方運輸局に事務連絡(通知)を出した。自治体の「構造改革特区」提案を受け、地域を限らず全国一円の規制緩和措置として講じた。
 住民の移動を保障する
「交通基本法」制定の動きや「地域主義戦略」を見据え、バス、タクシーなど公共交通事業者への支援を軸としつつ運行の担い手を広げた格好となった。特区案は埼玉県と佐賀県が3月に出していた。
 
道運法の適用を受けない無償運送の基準に関しては、有償運送が国の登録制として法制化された2006年の同法改正時、「登録・許可を要しない運送の態様」(事務連絡)が制定されている。国交省は今回、この事務連絡を明確化する「細部取り扱い」をつくった。運送の対価は従来、ガソリン代道路通行料駐車場料金の実費に限られ、佐賀県は「車両償却費、保険料、迎車・回送の際のガソリン代まで含むべき。乗せる側の持ち出しが多い」と要望。同省はこのうち車庫などを発着点とする迎車・回送時の燃料に着目し、実際の運行に必要とされ、トリップメーター(走行距離計)などを用いて金銭的な水準の特定も可能と判断、無償運送の対価の対象に加えた
 
ファミサポは子どもの預かりや家事など子育てを援助する厚生労働省所管の会員制のシステム。全国に570ヵ所ほど設置され、社会福祉協議会やNPOが運営の委託を受けている。子どもの有償運送は道運法上認められていないが、国交省ファミサポの活動に限り保育施設―自宅間など送迎部分のみの有料サービスのケースも含め無償運送として位置づけた
 事務連絡では「ファミサポの送迎は保護者に代わって子どもの世話をする継続的・一連のサービスの一部。従属的な要素にすぎない」とした。同省は「送迎1時間700円といった例はあるが、有償性は低い地域に根づき、総合的に子育てをサポートしている」(自動車交通局)とし、事実上、現状を追認した。
 埼玉県は「体調不良の園児や夜間の預かりがファミサポでできるようになり、自家用車使用のニーズは高い。対価を伴う有償の送迎でも道運法の適用除外とすべき」と求めていた。



『《国交省》バス・タク許認可権限維持/有償運送、自治体に移譲』(東京交通新聞2010.9.6)

 国土交通省は「地域主権戦略」の柱となっている地方出先機関の改革をめぐり、1日、自治体に移管できる業務・権限の範囲を「自己仕分け」した結果を公表した。自動車分野では、NPOなどの自家用車有償旅客運送(白ナンバー)について「希望する市町村に権限を移譲する」との方針を打ち出した。バス・タクシー・トラック事業(青ナンバー)に関しては「安全の確保など引き続き国が実施することが必要不可欠」とし、許認可規制・監督権限を維持する姿勢を強調した。
 有償運送の運行開始には現在、
道路運送法登録制が敷かれ、自治体が主宰し、地方運輸局やタクシー事業者・運転者、住民などが参加する「運営協議会」の合意を経て最終的に運輸支局が判断する仕組みになっている。国交省では登録制をはじめ運営協などの制度上の枠組みは変えず、市町村を対象に“手挙げ方式”を導入し、任意の自治体に最終権限を移す考えだ。全国知事会などが了解し、政府全体の議論がまとまれば、早ければ来年の通常国会に道運法の一部改正案を提出する方針。他の分野の進展次第で“地域主権改革関連一括法”に組み込まれる可能性がある。
 自己仕分けは「地域主権戦略大綱」(6月22日閣議決定)に基づく。地域主権戦略会議(議長=菅直人首相)が各省に対し、出先機関の「原則廃止・抜本改革」を旗印に8月末までに“原案”を報告するよう求めていた。同会議は月内にも開かれ「アクションプラン」の策定や法案づくりなどの作業を本格化させる。
 
国交省は自己仕分けで運輸局について「金国一律の安全基準・監査などを通じ、国民の生命・身体の安全を確保している唯一の現場執行機関。自治体との二重行政に当たらない。重大事故の発生時に全国ネットワークを活用し、類似事案の防止などを迅速・効率的に行うことが必要」と意義を唱えた。バス・タクシーの許認可権限の是非には「事業の安全確保、広域性、基準策定・執行の一体的実施などの観点から運用に地域差はあるべきでなく、自治体への移管は適当でない」とし、関係補助金の審査、車両登録、車検・整備などについても「国が行うことが適当」と位置づけた。
 一方で「自治体の移管要望の多くは地域住民交通と地域観光」ととらえ、
有償運送などを抽出し「地域のニーズや創意工夫が生かせる分野は基本的に地域に任せていく」と提起した。



『市民レベルでセミナー開く/移動権、生存権として確立を』(交通新聞2010.7.8)

 国土交通省が来年の通常国会への提出を目指す交通基本法で、柱の施策となる「移動権保障」を市民レベルで考えるセミナーがこのほど、東京都内で開かれた。障がい者・高齢者輸送、過疎地輸送を手がける自治や団体の全国機関「全国移動サービスネットワーク」が主催したセミナーでは、自由に移動できる権利を生存権の1つとして保障する動きが世界規模で広がりつつあることが紹介され、新法への期待が語れた。
交通基本法の成立に期待
 東京都世田谷区に本部を置くNPO法人の移動ネットは1998年に活動開始。先に国交省の交通基本法検討会に出席して、福祉輸送を地域の基礎インフラとし国が支援強化するよう求めた。
 
道路運送法福祉有償運送または過疎地有償運送と呼ばれる福祉輸送や過疎地輸送は、昨年3月末時点で全国700地域以上で実施。福祉という視点から、事業者は社会福祉協議会やNPOに限定され、タクシーのような事業用車でない一般乗用車を利用できるほか、営業用2種免許を待たない一般ドライバーも運転できるなど、一定の規制緩和が図られている。しかし、全般に経営は厳しく参入と撤退がくり返されている。
 移動ネットの通常
総会に合わせたセミナーは、交通基本法に連動した「今こそ移動保障を実現しよう」がテーマで、基調講演は障がい者団体・DPI日本会議の尾上浩二事務局長が担当。小学校は養護学校、中学校は地域や仲間の支援で普通校に通学した同事務局長は、「初めて友達の助けを借りながら、レコード店に買い物に出かけた日の感激は今も忘れない。あの日から人生が、生活が一気に広がった。そのことが自分自身、交通や移動を考えるきっかけになった」と、障がい者にとって移動の自由が大きな意味を持つことを強調した。
 障がい者団体の代表として政府の会合や国際会議に数多く出席する尾上事務局長は、2006年の国連総会で採択された「
障がい者の権利条約」に盛り込まれたアクセシビリティーの考え方が交通基本法の移動権保障と共通することを指摘。「国は障がい者基本法の抜本改正や総合福祉法の制定など障がい者自立に向けたさまざまな法制度整備を進めており、交通基本法もそうした流れの一環ととらえられる」と新法への期待を示した。
 
パネルディスカッションには、長野県南西部の中川村で過疎地有償運送のデマンドバスを担当する同村総務課交通防災係の荒井耕一職員がパネリストとして出席。「従来は高齢者が病院に通院する日には家族が会社を休むなど、交通不便な過疎地ならではの苦労があったが、デマンドバスには年間延べ1000人超の利用があり、高齢者に喜ばれている。既存のバス・タクシー事業者からは「営業妨害だ」の反対もあったが、粘り強く理解を求めた」と苦心談を語った。



『《全国移動ネットが総会》新生活交通の仕組み検討』(東京交通新聞2010.7.5)

 NPO法人 全国移動サービスネットワーク(全国移動ネット、194団体・個人)は先月27日、第4回通常総会を開催、新しい地域生活交通の仕組みづくりなど2年度目に入る3ヵ年計画の推進を柱とする新年度事業計画・予算を決めた。記念行事として、DPI(障害者インターナショナル)日本会議の尾上浩二事務局長による講演と「生活支援サービスとしての移動サービスを広げる」をテーマにパネル討論が行われた。
 事業計画の基本方針に、@道路運送法を改善するための各地のネットワーク組織との連携、A移動・外出の諸問題を顕在化し改善するための国への要請行動と情報分析、B人材育成――の強化を掲げた。具体的な行動プランとしては、▽
登録不要の市民活動のための環境整備、▽交通基本法案への提言や福祉輸送コスト負担の検討など『だれもが自由に移動できる新法』づくり、▽福祉・医療・教育・農水など各分野の公的制度での移動支援の位置付け、▽日本財団の助成による新しい地域生活交通の仕組みの検討と実践――など。
 鳥取県西部で福祉有償運送11団体が加盟する「とっとり移動支援ネットワーク」の光岡芳晶代表を新たに理事に選任した。
 パネル討論では、河崎民子・全国移動ネット副理事長が司会し、パネリストとして田中尚輝・市民福祉団体全国協議会専務理事、吉田樹・首都大学東京助教、荒井耕一・長野県中川村総務課交通防災係、尾上氏が参加した。



『新ひだか有償運送協議会/範囲拡大合意に至らず』(北海道新聞2010.5.21)

 町が設置する有償運送運営協議会の会合が20日、町役場で開かれた。NPO法人「三石過疎地有償運送すずらん」(河合暁子代表)が、利用者からの要望がある、として提出した移送範囲拡大について協議したが、合意に至らなかった。
 
過疎地有償運送は、公共交通機関が十分でない過疎地の人を自家用車などで運ぶサービス。事業の開始や事業内容の変更には、市町村が設置し、住民や交通事業者らでつくる有償運送運営協議会の合意がいる。
 すずらんは昨年4月から移送サービスを始めたが、移送できる区域は山間部の三石歌笛、三石川上の両地区―静内地区間と
条件が付いた。このため利用者は限られ、1年間24件にとどまった。今回、利便性を高めようと、移送範囲を三石地区の全域―静内地区、浦河町間に広げるなどの変更申請した。
 協議会は酒井芳秀町長が、河合代表ら委員16人に委嘱状を渡した後、申請について話し合った。
 河合代表は「浦河の日赤病院に行きたいなどの要望があったが応えられず、心苦しかった」と変更の理由を説明。これに対し、タクシー業者の委員は「過疎地の人が大変なのは分かるが、認めると営業できない」「
死活問題だ。白タクだ」と厳しく反対した。
 結局、議論は平行線で今後、河合代表とタクシー業者らによる協議が調った後に、再び運営協議会で話し合うことになった。
 三石地域の交通のあり方をめぐっては、
地域住民から交通弱者の救済を求める請願書が町議会に提出され、3月の定例会で趣旨採択された。



『《特区提案受け国交省》自家用車「無償」/運送範囲拡大へ』(東京交通新聞2010.5.17)

 NPOボランティアや市区町村のファミリー・サポート・センターなどによる自家用車「無償」運送サービスの範囲が今年度中に拡大する方向だ。自治体の「構造改革特区」提案を受け、国土交通省が規制・基準の緩和を検討しているもので、乗客から収受しても有償運送に該当しない対価(料金)の種類に迎車・回送分の燃料代を追加するほか、ファミサポの子供の送迎では、預かりと一体のサービス・対価に限り無償扱いとする方針を固めた。全国一円の措置として事務連絡(通知)で明確化する。ただ、競合する地方のタクシー業界からは反発も予想される。
迎車・回送燃料代、対価に
 特区制度は政権交代後も継続し、内閣官房が自治体や企業を対象に一括して提案を受け付け、所管省庁に採否を打診する仕組み。今回の3月11〜31日の募集で自動車分野は
無償・有償運送関係案件(埼玉県、佐賀県)ほか、乗合バス・デマンドタクシーの区域運行(静岡県富士市)、ハイブリッドタクシー(埼玉県)などが出された。地域活性化統合本部・特区推進本部(本部長=鳩山由紀夫首相)が最終決定する。
 
道路運送法の適用を受けない無償運送をめぐっては、有償運送が登録制となった2006年の同法改正時に「登録・許可を要しない運送の態様」(事務連絡)で基準が設けられている。対価は、@実際の運行に要したガソリン代、A道路通行料、B駐車場料金――の実費に限定され、佐賀県は「車両償却費、保険料、迎車・回送の際のガソリン代まで含めるべき。乗せる側の持ち出しが多い」と訴えた
 
国交省は運送行為によって発生する費用かどうかを判定材料に線引きする姿勢だ。「迎車・回送の燃料代はトリップメーター(走行距離計)などを使って金践的な水準の特定が可能」とし、内閣官房に「無償の対価の範囲に含むと解釈できる」と回答した。走行の有無によらない保険料などは困難とした。
子供預かり・送迎は無償
 ファミサポは住民の子育てを援助する厚生労働省所管のシステムで、NPOなどが運営の委託を受けている。
子供の有償運送は道運法上禁じられているが、従来、ファミサポ側からは「子を預ける人と運転する人が別々だと母親は不安がる」と実態の追認を求める声が目立つ。今回は埼玉県が「体調不良の園児や夜間の預かりがファミサポでできるようになり、自家用車使用のニーズが高まっている。対価を伴う有償の送迎でも道運法の適用除外とすべき。子育て世代の支援につながる」と要望した
 
国交省は現時点で「運送に固有の対価を求めなければ有償運送に当たらない」と判断、「子供を預かるサービス・役務の一環としての送迎を事務連で無償と位置づける」としている。
地理的範囲内の営業所なら容認
 富士市は「地域公共交通活性化・再生総合事業」補助金を活用したデマンド乗合の実証運行を本稼働に切り替える中で、「地域公共交通会議の合意を得ていれば、営業区域内に営業所がなくても認めてほしい」と特区案に踏み切った。同省は運行管理面を重視し「地理的範囲内」に営業所を設置していれば容認する方向。8月末までに
通達を改正して全国基準とする

自動車分野の主な「構造改革特区」提案
申請主体 概要
岡県富士市 乗合バス・デマンドタクシーの区域運行基準の緩和
佐賀県 自家用車ボランティア「無償」運送の範囲拡大
埼玉県 ファミリーサポートセンターによる子供有償送迎の容認
ハイブリッド車タクシーの車体構造・保安基準の緩和
大阪市 搭乗型「移動支援ロボット」の公道走行実験
大阪府 2人乗り電気自動車規制の緩和、型式手続き簡素化
(注)内閣官房が自治体、民間企業などを対象に3月11〜31日に受け付け。
   所管省庁と採否を折衝中



『《障害者送迎NPOに壁》大阪市 普通車使えず・回送料金禁止/タクシー業者交え協議 地元ルールが制約』(日本経済新聞2010.4.16)

 障害者や要介護者らを車で送迎し、通院や買い物などを支援する特定非営利活動法人(NPO法人)などの活動が困難になる例が各地で起きている国土交通省に登録されれば、運賃を徴収して人を運ぶことが例外的に認められているが、NPO側は「地方ごとに定められるルールが厳しすぎる」と指摘。交通弱者の足を守るため、国交省に改善を求めている
 障害者らを送迎する活動は1980年ごろから各地で始まった。当初は法的位置付けがあいまいだったが、運賃の重いタクシーでは需要に応えきれず、介護などの専門家のサポートが必要との考えから、2004年の国交省通達で例外的に容認2006年には
改正道路運送法で、白ナンバー車で例外的に有償運送できる自家用自動車登録制が適用され、正式に認められた
 全国で2009年約1万4000台が登録され、活動するNPO法人などは2323団体(2009年9月時点)。障害者団体などは「
有齢化の進展などで需要は増えている」と口をそろえるが、団体数は2007年3月からほぼ横ばいで、逆に17都道府県では減少している。法的な位置付けを得たことで、かえって活動しにくくなる事例も。地域ごとの運営のルールは、同省令に基づき地域ごとに設置され、自治体やタクシー会社などが参加する「運営協議会」が決めるためだ。安い運賃で送迎するとタクシー利用者が減る恐れがあるため、2年に1度の登録更新には協議会の合意が必要。協議会では乗員の年齢、車両の車検頻度などについて独自の“地元ルール”を守らせることもできる。あるNPO法人は「我々から見ると、理不尽なルールもある」とこぼす。
 NPO法人関係者によると、大阪市
協議会は、運賃を徴収できるのは利用者を実際に乗せた状態だけとし、回送料金などを禁止。車両も車いす用福祉車両しか認めず、普通車は使えない。駐車場や車検など車の維持費だけでも年間30万〜40万円の経費がかかるといい、同市のNPO法人は「訪問介護など他の事業で赤字を補う団体も多く、送迎サービスを続けるのは苦しい」と打ち明ける。
 広島県呉市の場合は、
協議会開催の際に利用者として登録された人だけを送迎できる仕組みだという。同市のNPO法人は「新たに利用を希望する人は多いが、協議会の開催は年1回程度に限られる上、いつ開かれるかも分からない」と利便性の悪さに困惑する。
 これに対し、タクシー側は「NPOへの規制はタクシーより緩い上、安全上必要。活動しやすく変えるという意見はおかしい」(全国乗用自動車連合会)と反論する。
 国交省は交通弱者に配慮した
交通基本法制定の検討を始めたが、同省自動車交通局は「すぐに見直すことは考えていない」としており、改善には時間がかかりそうだ。



『《福岡市》生活交通条例で「移動権」特記/行政の役割・責任明示』(東京交通新聞2010.4.12)

 市民が健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動を保障する――“移動権”の理念を初めて明文化した福岡市生活交通条例「公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保に関する条例」が先月末、制定された。行政責任と住民参加をうたった同条例は、バス、タクシー、NPO有償運送にどう影響するのか取材した。
 
移動権の考え方は同条例の前文と目的に書き込んだ。憲法25条の国民の権利には「国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と幅広に書かれているが、同条例に「移動を保障する」と特記した。国土交通省は来年制定する予定の交通基本法「移動権」を盛り込む方針だが、福岡市の条例は基本法の先取り。全国各自治体で移動権をうたった条例はない。
 同条例の特色の第一は、通勤、通学、通院、買い物をはじめ日常生活に欠かせない生活交通を支える主体をバスやタクシーの交通事業者任せではなく、
福岡市行政が積極的な役割と責任を果たすことを明示した。同市では、西鉄バス路線廃止後に板屋地区が交通空白地となり飯倉タクシーが乗合タクシーを運行したり、昭和バス路線廃止後に今宿上ノ原地区などが交通空白地となり姪浜タクシーが乗合バスを運行したり、これまで民間努力主体に対応してきた。今後、市が主体的に取り組むことを市民に宣言し、街づくりなどと一体で生活交通施策を推進しなければならない。
 特色の第二は、生活交通の確保策を市民が提案し参画する権利を明示した点。具体的には乗合タクシーやコミュニティバスなどの運行を住民が地域で主体的に計画することなどが想定されている。
 特色の第三は、住民、行政、公共交通事業者の3者が協働する枠組みをつくることをうたった点。生活交通施策の推進では、公的機関の市が必要な支援をする
「公助」を、地域住民が協力して負担する「共助」や、自己責任で交通機関を利用する「自助」で補い合う仕組みを構築していく。
 居住地から最寄りのバス停まで1`b以上の地域を「公共交通空白地」、500b以上を「同不便地」と定義。市長は公共交通空白地などを地域公共交通会議の意見を聞いて「特別対策区域」に指定できる。同持別区域では、生活交通確保に対し、市は予算の範囲で必要な支援をし、公共交通事業者は市民などと協働し最大限の協力が求められる。
 想定される新しい交通サービスは乗合タクシーやコミュニティバス。タクシー業界は路線バスや鉄道の廃止後の公共交通空白地の代替交通の主要な担い手になれる。移動制約者へのサービスでは介護タクシーや福祉タクシーなどタクシー事業の幅が広がると期待されている。
 福祉有償運送について移動制約者のための重要な生活交通と位置付け、同運送に対する市の公的支援の根拠を明記した。これにより、同運送で心要な運転者講習の補助が可能となる。



『《国交省》財源拡充し一括交付/交通基本法で「中間整理」』(東京交通新聞2010.4.5)

 国土交通省は先月30日、交通基本法制定・関連施策の検討に向けた「中間整理」を取りまとめた。視点の柱として▽「移動権」の保障と地域公共交通の維持・再生・活性化財政支援措置の拡充地球環境に優しい交通体系づくり、地球の活力――を掲げた。住民、自治体、交通企業など地域の関係者が移動手段を構築し、国の補助金は「協議会」に対し、使途を縛らず自由度の高い一括交付する仕組みの必要を打ち出した。パス・タクシーに関してはユニバーサルデザイン(UD)化の徹底をうたった。5〜6月に具体化する方針だ。
 
法案来年の通常国会に提出する予定中間整理は民主、社民両党が野党時代に出した案をベースに、昨年11月以降開かれている同省検討会や2月1日〜先月2日の意見公募(パブリックコメント)を踏まえた。国から地方への一括交付金制度は道路・河川・港湾・住宅などの分野で「社会資本整備総合交付金」が2010年度創設されている。道路運送法など事業法の見直しの方向は今回盛り込まれなかった。
 この日、辻元清美副大臣と三日月大造政務官がそろって会見し、辻元氏は「商工会議所によるデマンド(需要応答型)バス運行などいろいろ工夫している例がある。どの地域でも“最後の1本”がなくならないよう実情に合わせて決められる仕組みを考えている。財源の制約はあり、住民が支え合うという意識に変わらないといけない」と強調した。一括交付金について、三日月氏は「地域主権の流れと組み合わせた一つの方向だ」と述べた。



『福祉有償セミナー/「交通基本法」で辻元副大臣講演』(東京交通新聞2010.3.22)

 NPO全国移動サービスネットワーク、関西STS連絡会は14日、高槻市の高槻現代劇場で「福祉有償運送セミナー」を開催、国交省の辻元清美副大臣「交通基本法」をテーマに講演した。近畿運輸局の原喜信局長ら幹部本省総合政策局の山口勝弘交通計画課長自治体関係者ら180人が出席した。
 
辻元氏は「交通基本法」が目指す利用者本位の移動権について解説し、「“共助”の視点を加えて国、地方が公共交通機関への支援を拡充する必要がある」と強調した。
 山口課長は「交通基本法」制定に向けたパブリックコメントの概要を紹介。「国、地方自治体、事業者、国民の役割と責任を明確にすべき」との意見が多かったと述べた。



『《14日・高槻》福祉運送セミナー「障害者に移動手段を」/辻元副国交相が講演』(毎日新聞2010.3.11)

 体が不自由な障害者やお年寄りに日常の移動手段を提供する「福祉有償運送」を考えるセミナーが14日、高槻市の高槻現代劇場で開かれる。鳩山政権が進める「交通基本法」の検討作業をにらんで、誰もが自由に移動できる社会作りのための課題を探る
 
福祉有償運送は、バスやタクシーでは十分対応できない人を対象に、NPOや社会福祉法人が安価で提供する。府内では、2008年度末で151事業者(車両484台)が実施。登録制度が2006年にスタートしたが、経営難などから新たな参入は伸び悩んでいる
 セミナーでは、
辻元清美・副国土交通相が「交通基本法から考える利用者本位の移動について」と題し、基調講演する。午後1〜5時。



『《交通基本法検討会・意見聴取》福祉輸送めぐり移動サービス増強の声/交通基本法制定に期待感』(東京交通新聞2010.3.8)

 国土交通省は1日、「交通基本法検討会」の第7回会合を開き、高齢者・障害者・妊婦・子どもの福祉輸送をテーマに全国福祉輸送サービス協会の漢二美会長、全国子育てタクシー協会の内田輝美会長、NPO全国移動サービスネットの中根裕理事長、NPODPI(障害者インターナショナル)日本会議の三澤了議長からヒアリングした。
 同法上でのタクシー事業・移動ービスの位置づけや財政支援の拡大を求める声が相次ぎ、利用者本位に立った道路運送法など関連法制の見直しや、開発中の「ユニバーサルデザイン(UD)タクシー」車両の保有義務づけなども政策課題に挙がった。財源の確保に向けては、電話料金の「ユニバーサル・サービス料」などを例に地域社会が公共交通の運行経費を公平に負担する制度づくりが提起された。
 三澤氏は、乗車・入店拒否に遭った十数の事例を紹介し「新法は利用者の視点で鉄道、バス、タクシー、移送サービスを切れ目なく整備してほしい。地域の中で財源を考える交通、福祉一体の体制づくりも。道路などインフラの費用を回すべき」と強調した。公共交通の運営に当てるユニバーサル・サービス料の徴収のアイデアは中根氏が提唱した。
 UDタクシーは高齢者や車いす障害者、一般の利用者などが街中で共用できる次代の車種。漢氏は「大手の事業者を中心に一定の比率で導入を義務化すべき」とし、中根氏は「移動サービスの担い手は不足している。非営利の送迎が道運法に位置づけられたため硬直化し、利便を損ねている。法の総点検が重要」と主張した。
 事業者・団体への補助金に限らず、住民に支給する利用券による助成をめぐっては、内田氏が「子育て家庭にとって移動は経済的負担が大きい」と拡充を求めた。また「子育て施策の中でも移動の位置づけを。国はタクシーの公共性の考え方を自治体に下ろしてほしい」と訴えた。漢氏は「子ども手当では親が何に費やすか分からず、移動など使う目的をはっきりさせるべき」とした。
 冒頭、辻元清美副大臣は「回を重ねるごとに少しずつ輪郭が見えてきた。公共交通の現状は所得格差や医療崩壊の問題と同じだ。立て直す時期に来ている。すべての人に移動の権利を実現する観点で、公共交通が維持・発展できるようにしたい」と述べた。法案の検討は2011年度予算の概算要求と同時に進み国交省は夏前に骨格となる「中間整理」を提示する方向。



『かながわ移動ネット/福祉有償運送で学習会』(東京交通新聞2010.3.8)

 神奈川県で非営利の移動サービスを行う90団体・個人が加入するNPO法人かながわ福祉移動サービスネットワーク(以下、移動ネット=清水弘子理事長)は2月27日、横浜市内でリーダー学習会を開き、「交通基本法」と福祉有償運送の今後をめぐり基調講演とパネルディスカッションを行った。
 国土交通省の関口幸一・総合政策局次長は来年1月の通常国会提出を目指す「交通基本法」について講演し「移動を補償される権利が法律の核となる。具体的措置が最大の課題で地域の自主性・自立性を高める方向でより良いものができるかどうかだ」と述べた。
 九州大学の嶋田暁文・法学研究院准教授(行政学)は講演で福祉有償運送の運営協議会での合意やローカルルールの弊害に触れ「利用者の利益が反映されない制度設計が最大の問題」と指摘。「交通基本法」と関連づけ「業法だけの交通関係法律を利用者本位に転換させ、制度改革するチャンス」とし、財政措置では「住民が交通のため痛みを覚悟し、一定額の税を上乗せした自治体に国が財政支援する方法もある」とした。
 パネル討論「地域主権でつくる福祉交通の明日」をテーマに移動ネットの河崎民子理事が進行。神奈川県の金子浩之・地域保健福祉課長代理は、県内の福祉有償運送団体数・車両の伸び悩み傾向を報告し、将来増えていく移動制約者への対応が課題とした。横浜市の黒水公博・都市交通課長は、都市計画の視点から福祉輸送に触れた。NPO法人療育ネットワーク川崎の谷みどり代表は、移動に特化した団体運営は厳しい状況とし、公的支援の必要性を訴えた。清水弘子・移動ネット理事長は、「交通基本法に福祉輸送での市民活動の大切さが位置づけられ、利用者本位の視点で公的支援が出てくるなら希望を見い出せる」と述べた。特別講演した関口、嶋田両氏も加わって意見を交換し、質疑応答を行った。



『《関口国交省総政局次長・「交通基本法」で講演》移動サービス供給増と財源確保が重点課題に』(東京交通新聞2010.3.1)

 国土交通省の関口幸一総合政策局次長は先月19日、都内で開かれた全国子育てタクシー協会のセミナーで、来年の通常国会に提出する「交通基本法」をテーマに講演、最新情勢として財源の担保移動サービスの供給量の増強重点課題に挙げた。法案検討会を主宰する辻元清美副大臣や関口総政局次長らは今後、検討会の議論と並行して全国乗用自動車連合会自家用車有償運送NPOなど関係団体の会議で講演する予定。一般向けには2日を締め切りに意見募集中。1日の第7回検討会にはタクシー、NPO系が登場する。
 関口氏の講演要旨は次の通り。
【法案の骨格】野党当時の民主、社民両党が共同で提出し、廃案となった条文がペースとしてあり「移動の権利」の扱いが最大のポイントになる。国民一人ひとりが生まれながら権利として移動が保障されているという理念だ。従来、政府が乗らなかったのは、法を担保する手段がない中で権利だけが発生すると国・自治体に補償請求が相次ぐ懸念があったため。交通行政として目指すべき方同は間違っておらず、今回は内閣の法案なので予算などの制度・政策を同時にきっちり仕上げる必要が出ている。
【道運法との関係性】基本法自体には道路運送法などの許認可を規定しないので、急に事業に変化は生じないだろう。ただ、関連する事業法は移動の保障の観点から見直しの対象になる。自動車、海運、鉄道、航空ほか自転車や徒歩まで関係し、切り口もバリアフリー、過疎、幹線、物流など関係分野すべてに及ぶ。今後の議論になる。
【移動サービスの供給量】高齢者・障害者などにわたる移動手段の確保移動サービスの供給を増やすことにほかならない。自治体の反応は、都市でも公共交通の量は不足しているという。タクシーを減らしていっても需要がさらに流れれば、中心街に車両があふれる光景は続くだろう。
【展望と期待】道運法など既存の枠にあまりとらわれず、移動部分にとどまらない世間の感覚で生活支援サービスを考えてほしい。自治体の福祉部局は移動のニーズを意識している。市町村の計画に、基本法の制定の動きは今後を考える良い機会になると思う。



『《全国移動ネット・関西STS連絡会》14日に福祉有償セミナー/講師に辻元国交副大臣迎え』(東京交通新聞2010.3.1)

 NPO全国移動サービスネットワーク関西STS連絡会14日、高槻市の高槻現代劇場「福祉有償運送セミナー」を開催する国土交通省の辻元清美副大臣「交通基本法」をテーマに講演する予定。このほか大阪大学大学院の猪井博登助教授全国移動ネットの河崎民子副理事長有償運送の現況で問題提起した後、パネルディスカションを行う。
 
福祉有償運送は事業者法である道路運送法の中で「登録制」として位置づけられたが、移動送迎サービスの拡大は遅々たる歩みであるのが現状。政権交代後、「交通基本法」制定に向けたヒアリングが開始されている状況などを踏まえ、移動送迎サービスの今後を考える。(セミナーの問い合わせ先は関西STS連絡会06・4396・9189。)

『運転者のスキルアップで研修会』(東京交通新聞2010.3.1)
 
NPO移動送迎支援活動情報センターは先月18日、大阪社会福祉始動センターで、福祉有償運送の「管理者・運転者スキルアップ研修」を開き、運行・車両管理のポイント、関係法令等を勉強した。



『障害者送迎NPOに壁/タクシー業界交え運営協「ルール厳しすぎ」』(日本経済新聞2010.2.26)

 障害者や要介護者ら車で送迎し、通院や買い物などを支援する非常利組織(NPO)の活動が困難になる例が各地で起きている国土交通省に登録されれば、タクシーのように運賃を取って人を運ぶことが例外的に認められているが、NPO側は「地方ごとに定められるルールが厳しすぎる」と指摘。交通弱者の足を守るため、国交省に改善を求めている。
 
障害者らを送迎するNPOの活動は1980年ごろから各地で始まった。当初は法的位置付けがあいまいだったが、運賃負担の重いタクシーでは需要に応えきれず、介護の専門家のサポートが必要との考えから、2004年の国交省通達で例外的に容認2006年には改正道路運送法、白ナンバー車で例外的に有償運送できる自家用自動車登録制が適用され、正式に認められた。全国で2009年に約1万4000台が登録されているが、活動するNPOは2327団体で、2年前と横ばい。むしろ石川県では16減、東京都では12減となるなど18都道府県では減っている。
 
障害者団体などは「高齢化の進展などで需要は増えている」と口をそろえるが、法的な位置付けを得たことで、かえって活動しにくくなる事態が起こっている。背景にあるのが、同省令に基づき地域ごとに設置され、自治体やタクシー会社などが参加する「運営協議会」だ。
 安い運賃で送迎するとタクシー利用者が減る恐れがあるため、NPOの活動内容や2年に1度の登録更新には協議会の合意が必要。協議会では乗員の年齢、車両の車検頻度などについて独自の“地元ルール”を守らせることもでき、あるNPOは「我々から見ると、理不尽なルールもある」とこぼす。
福島県いわき市のNPOは昨年、登録更新に協議会が反対したため運賃を取った活動ができなくなり、ガソリン代程度の実費だけを受け取る実質無償の送迎に切り替えた。担当者は「赤字で苦しいのだが」と唇をかむ。富山県射水市のNPOは、車いす用福祉車両知的障害者を送迎するよう協議会で求められ、「福祉車両は3台あるが車いす利用者はいない。維持費も高く、普通車を使いたい」と困惑する。
 これに対し、タクシー側は「NPOへの規制はタクシーより緩い上、安全上必要。活動しやすく変えるという意見はおかしい」(全国乗車自動車連合会)と反論する。
 
国交省は交通弱者に配慮した交通基本法制定の検討を始めたものの、同省自動車交通局は「すぐに見直すことは考えていない」としており、改善には時間がかかりそうだ。

障害者らの送迎を手がけるNPOの減少が目立つ都県
(国土交通省まとめ)
  活動するNPO数
(2009年3月)
2年前と比べた減少数
石川県 33 16
東京都 134 12
愛知県 102 12
青森県 58 7
神奈川県 171 7
静岡県 56 6
宮城県 24 6



『国交省「交通基本法検討会」/来月1日のヒアリングは、タクシーや福祉有償をテーマに』(東京交通新聞2010.02.22)

 国土交通省は来月1日に開く予定の「交通基本法検討会」第7回会合で、タクシー、ボランティア福祉有償運送などSTS(スペシャル・トランスポート・サービス=個別輸送体系)をテーマに据え議論する方向だ。昨年11月の初会合以降、4人ずつ関係者へのヒアリングが続いているが、タクシーがストレートに取り上げられるのは初めて。
 調整中の出席予定者は全国ハイヤー・タクシー連合会ケア輸送委員会全国子育てタクシー協会NPO法人全国移動サービスネットワークNPO法人障害者インターナショナル日本会議
 16日の第6回会合では、交通とまちづくりを題材に奥山・仙台市長、川岸・富山地方鉄道社長、宇都宮・人と環境にやさしい交通をめざす協議会、疋田・NPO自転車活用推進研究会理事が意見表意した。
 宇都宮氏はLRT(次世代軽量路面電車)の富山ライトレールの運営や、市民側にも協力を課す金沢市の「バス・トリガー協定」(運貸の値下げに採算ラインを設け、割った場合、運行を中止する契約)などに触れながら「公共交通は街の装置、公共財だ。直接利用しない人も“利用可能性”や渋滞の解消といった便益を享受している。民間事業による独立採算運営は海外では例が少ない。行政や沿線住民など公が支えていくべき」と主張した。
 自転車を推進する辻元清美・副大臣の肝いりで登場した疋田氏は「エコ、健康には一番。自動車道路の中に通行帯を設ければスピードが出せて歩行者にも安全」と述べた。奥山氏はバスや地下鉄を中心に提言した。
 冒頭あいさつした三日月大造政務官は「交通の移動は人の生活であり、福祉につながる」と話した。



『福祉輸送などで要望書/移動サービスネット、国交省に』(東京交通新聞2010.02.08)

 障がい者や高齢者の病院への送迎や、過疎地輸送を手掛ける団体の全国組組織・全国移動サービスネットワークはこのほど、自由な移動を国民の権利とし、国が必要な支援を行うよう求める要望書を三日月大造国土交通大臣政務官に提出した。国土交通省交通基本法検討会の場で、交通に求められるさまざまな要件を探っており、同ネットワークは今後、国交省に要請して検討会の場で団体としての考え方を鋭明する。
 道路運送法福祉有償運送または過疎地有償運送と呼ばれる福祉輸送や過疎地輸送は、昨年3月末時点で全国700ヵ所を超す地域で実施。福祉輪送という視点から、事業者は社会福祉協議会やNPO法人に限定され、タクシーのような事業用車でない一般乗用車を利用できるほか、営業用2種免許を持たない一般ドライバーも運転できる。
 国交省のまとめでは、福祉・過疎地輸送は介護保険の対象になっていることなどから全国で3000団体弱の事業者(車両数釣1万4500台)が手掛けるが、経営は厳しく参入と撤退が繰り返されている。
 移動ネットが問題視するのが経営面とともに、既存のタクシー事業者との競合を避けるため、事業者登録に地域の運営協議会での合意を必要としている点。国交省への要請で移動ネットの柿久保浩次副理事長は、「障がい者や高齢者の移動は福祉というよりも生活を支えるライフライン。国は移動の自由を保障するため必要な支援を行うとともに、社会福祉の観点で運営協議会での合意も外してほしい」と訴えた。
 国交省は昨年末に開いた検討会の4回目の会合に、群馬県六合村社会福祉協議会の冨澤和吉事務局長を招き、福祉輸送の必要性を聞いている。



『《福祉有償運送》「活性化へ道路運送法改正を」/全国移動ネット、国交政務官に陳情』(東京交通新聞2010.02.01)

 全国移動サービスネットワーク(全国移動ネット、中根裕理事長、187団体・個人)は先月26日、国土交通省三日月大造政務官に対し、福祉有償運送と過疎地有償運送の現行制度が活動実態にそぐわないとして、道路運送法を改正するよう陳情した。柿久保浩次副理事長(大阪)、渡部勝理事(愛知)、山本憲司理事(東京)、伊藤みどり事務局長が、前原誠司国交相あての要請書を手渡した。陳情後、記者会見を行い、窮状を訴えた。
 具体的な
要請内容は、@移動を保障する財源確保と自治体の責任の明確化、A有償運送の登録要件の「運営協議会の合意」撤廃と同協議会の地域福祉交通の検討の場への位置付け、B異議申し立てできる第三者機関の設置、C2分の1対価基準の撤廃を含むルール見直しと簡素化、D利用対象者の要件で経済性など生活環境要因を考慮――の五つ。
 三日月政務官は「高齢社会で移動ニーズば高まっているのに、応えられないボランティア有償運送があり、お客がいなくて稼がないといけないタクシーのような交通機関がある。市場の需給がミスマッチ状況にあると認識している。いっぺんに整合性がとれるか分からないが、どんな担い手がどういうサービスを提供するのか、一度問題を整理する時期にきている。交通基本法案を来年の通常国会に提出する。その中で移動の権利を明確にしたいと考えている。この機会に、制度を見直し、関係する道路運送法の見直しも検討していきたい。改善点を提案してほしい」との見解を述べた。