X.関西STS連絡会の課題
1.STサービスのあり方
高齢化の進展に伴い、今後ますますSTサービスの役割は高まっていくと思われるます。その反面、それを支える若い層は減少傾向にあり、福祉の水準と負担についての抜本的な見直しが必要です。
介護保険制度の導入により、STサービスに、介護保険を適用した介護(福祉)タクシーの参入が増えています。市場が広がることが容易に予想され、また、費用が介護保険から負担されるという点から、ビジネスとして捉えるならば、チャンスであることは間違いありません。
しかしながら、交通制約者のモビリティー対策としてのSTサービスは、公共交通機関の代替手段という位置付けから、収益の最大化が基本的な使命である企業セクターが前面的に担うことは、必ずしも最善の選択ではないと思われます。
一方で、NPOという存在が注目を集めています。NPOと企業セクターとの違いは目標設定にあります。究極的な目標は、関わる人々すべての幸福の追求であることで一致するが、それに向けたアプローチとして、企業セクターは収益の最大化を目指します。NPOの使命は、最小限の資源で最大限のサービスを提供すること、つまり、企業セクターでいう収益分を利用者や市民といった社会全体に還元することです。
ボランティア団体は、サービスの需要の発見や、サービスの必要性についての社会的な合意が得られていない分野について、先進的に取り込むことが役割であり、サービスが必要であるとの社会的な合意が得られれば、そこからはNPOが担う部門です。
こうした求められる役割から、NPOはボランティアと違い、事業の経営に関しての透明性や公平性のほか、特に、効率性や継続性が求められます。効率の追求の点では、いい意味での競争も必要です。企業経営的な手法を適用することへの拒否反応もあろうかと思うが、それを自らのよりよい活動に向けた道具として捉え、逆に積極的に利用することも必要です。継続性ですが、自発的な事業ではなく、社会から要請されているという点で、存続させる責任が伴います。
また、STサービスに関して「社会の為に役立っているのだから、行政は無条件で支援すべきだ」との向きもあるが、支援の資源は市民の負担であり、本当に社会全体から要請されているが、支援に見合った市民利益が得られるかの2点を十分に検討する必要があります。
交通制約者の生活目的のSTサービスは、社会に必須の事業として捉えるべきであり、市民の自発的行動だけに依存するべきでないと思われます。こうした視点から、生活目的のSTサービスについては、NPOが担うことが期待され、行政や市民などはNPOをしっかりとサポートしていくことが求められます。
自由目的もSTサービスについては、大きく議論の余地があります。福祉の増進を目的として、市町村が取り組んだり、市民がボランティア活動として取り組む場合や、利用者が自らの負担で介護(福祉)タクシーを利用するといった場合もあります。
2.関西STS連絡会のあり方
アンケートの結果から、団体が連絡会に求めているのは、資金や人材、車両などの運営資源ではなく、運営のシステムの構築であることが結論付けられます。特に、大阪においては、STサービスは混沌としており、情報すら受信するにも発信するにも困難が伴います。この度の連絡会創立の案内を発信するにも、個人的なつながりで存在を認知している団体にとどまり、案内が届いていない団体もあります。事実、設立総会への案内が無かったものの、知り合いの団体からの情報で来場した団体が多数ありました。
まずは最低限のシステムとして、情報が送受信できるようにする必要があります。そのために組織のあり方としては、図15のような形態が適当と思われます。
図15 連絡会の組織概要図
土台の上に各種の事業を建てた二段型とし、土台部分には、情報の収集・発信、事業部会間の調整、外部との窓口といった機能を持たせ、運行協力等の具体的な活動については、事業部会が行うといった形です。土台部分は、参加用件を低く設定することで、多くの団体の加盟を目指し、意見の分かれる活動については、自由参加の事業部会で同じ志の団体同士が活動を深めていくというような形をとることで、各団体の要望に応えられると思われます。
事業部会の例としては、運行協力があげられ、活動地域や送迎条件などで協力できる団体同士で活動を始めることで、全体で一斉に取り組む場合と比べて、スピードとスムーズさが追求できます。ここでのネットワークの役割は、部会の情報を流すことで参加団体を増やしたり、得られたノウハウを他の事例に生かせる点などが挙げられます。
3.今後の課題
関西STS連絡会の今後の課題。
・ 具体的な到達目標の設定
・ 加盟団体を増加させること
・ 存続基盤の確立
・ 連絡会に加盟することのメリットの提示
・ 連絡会自体が事業を行うことで、単なる集まりではなく、連絡会が実体のあるものであること
今後の研究課題。
・ 日本国内のSTサービスの中心となる団体の構想
・ 関西及び近隣地域のSTサービスネットワークとの協力のあり方
・ 利用者の視点から見た長距離移動の実体
・ 利用者調査に基づく、生活目的STサービスの最低限ラインの設定
・ 需要増に対応した、持続可能なSTサービスのあり方の検討
・ STサービスの対象者と最低限保障されるべきサービスの水準の検討
・ 費用負担に関する検討
|