山西省ゆったり旅

9月に中国山西省に行った。 省都太源を中心に、晋祠、五台山、世界遺産の平遥などを回った。山西省は太行山脈の西にあることから名づけられたように、 広大な華北平原とは山脈に隔てられ、乾燥がちの土地だ。東は太行山脈、北は内モンゴル、西と南は黄河に囲まれたこの地は、 今の中国では開発の遅れた地域であるが、古代から文明の栄えた土地で、4000年前の夏王朝の伝説地 でもある。そして春秋時代は晋の国が強大で、文公は「春秋五覇」の一人に上げられたほどだ。

晋祠は晋の始祖、唐叔愚(3000余年前の人)を祀るところで、この祠自身も1500年以上の歴史を持っている。 ここは太源郊外の山麓にあって、あちこちから泉が勢いよく湧き出ており、乾いた大地の中でここだけがうっそうとした森に囲まれ、 別世界に入り込んだような清々しさだ。「隋のエンジュ」、 「唐の柏」などと称する大木もあるが、それも信じさせるような雰囲気がある。ここでゆったりとした気分で見物し、昼食も取り、 たまたま通りがかった鳴り物入りのにぎやかな葬礼の行列を眺め、また楼閣の上で茶を飲みなどしていたらいつのまにか一日を過ごしてしまった。

五台山は太源からバスで3〜4時間かかる太行山脈の中にある仏教聖地。 ここは文殊菩薩信仰のメッカと言っていい所で、今も多くの寺院がある。「五台」というのは5つの高い山という意味で、 3000m級の東台、南台、西台、北台、中台という山々に囲まれている。唐時代、日本からの留学僧円仁(後の天台座主慈覚大師)もここで修行している。 しかし今の五台山はラマ教を信奉する清王朝から手厚い保護を受けたせいか、チベット仏教であるラマ教の影響が非常に色濃いのを感じた。

文化大革命で大きな打撃をこうむった中国仏教も最近は意気盛んで、参拝者が押しかけている。 見たところ中年層を中心に女性が多いように見えるのは、やはり中国でも女性への抑圧が強く、 そこからの救いを求めているのかもしれない。寺側はそれに対し、「供養が多い程、仏の加護がある」という形で、一本数百元もする香木や供花を買わせるなど、 もうけ主義が横行しているのが気にかかった。

平遥は、明清時代の城壁に取り囲まれた町だ。かつて中国の町はほとんどが城壁に囲まれていたという。 今でも都市のことを「城市」というのはそのなごりだろう。近現代になって「交通のじゃま」ということでほとんどが撤去されてしまったが、 南京、西安などは昔の姿をとどめている。特に平遥は城壁だけでなく、城内も明、清の町並みが残っていることで有名で、 それが世界遺産に選ばれた理由だ。ここで泊まったホテルも昔の商人宿で、古めかしい門を入ると中庭があり、 庭に面してオンドル式のベッドを備えた部屋がめぐっている。伝統的な四合院方式の建物だ。外の雑踏もここまでは届かない。 城内ではかつての銀行業者、運送業者などの屋敷が開放されているが、ここはむしろ町全体が博物館と言っていいぐらいで、 街歩きだけでも十分楽しいところだ。

山西省は麺の本場。 日本でいう麺(うどん・そば)だけでなく、麺本来の意味である小麦粉製品の種類は多彩で、動物をかたどった物などは食べるのが惜しいほどだ。 この秋には、太源で麺フェスティバルが開かれ、多くの人でにぎわったそうだ。着いた時には既に終わっていて残念だったが。

北京、上海、西安などに比べ山西省は日本ではあまり知られていないようであるが、 見るべきものはたくさんあるので時間があればゆっくりと旅したい所である。                           

(土代 武)



戻る