『 同 友 会 だ よ り 』
(
vol.5 2012.11.18)


 今年も残すところあとわずかになりました。厳しい暑さも過ぎ、やっと過ごしやすくなったと思ったら、もう寒い季節がやってきます。皆様いかがお過ごしでしょうか?

 ご存知のように韓国では12月の大統領選挙に向けて激しい選挙戦が繰り広げられています。現在、セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補、無所属の安哲秀(アン・チョルス)候補の3名が有力視される中、我々としましては野党出身の大統領を、と願うばかりです。

「裁判の経過報告」
 さて、ソウルで闘ってきた仲間たちの裁判の報告をさせていただきます。神戸の李憲治氏の無罪が大法院で確定(2012.9.27)しました。氏は高裁で無罪判決(2011.1.13)が出ていたのですが、ほぼ1年9ヶ月という長い期間を経ての確定となりました。また同日、広島の趙一之(チョー・イルチ)氏にも高裁で無罪が言い渡され、確定しました。

 東京在住の具末謨(ク・マルモ)氏は地裁に続き、高裁でも無罪判決が言い渡されました。他方、大阪の李東石(イー・ドンソク)氏に再審開始決定が下り(2012.9.4)、京都の姜鐘健(カン・ジョンゴン)氏にも再審開始決定が下りました(2012.9.25)。
 また、東京在住の許哲中(ホ・チョルジュン)、大阪在住の高秉澤(コ・ビョンテク)、両氏に対する再審裁判の二回目の公判(2012.10.18)で両氏ともに無罪の判決が下されました。

 東京在住の金鐘太(キム・ジョンテ)氏は昨年4月26日に再審開始決定が出されて以来、長い間待たされていましたが、1年六ヶ月ぶりに裁判日程(2012.11.6)が決まり、一回目の公判が11月6日に行われ、12月7日には無罪判決が出るものと思われます。

 11月12日、康宗憲(カン・ジョンホン)氏の裁判が行われ、一回目の公判から半年以上を経て、ようやく結審の運びとなりました。
 裁判の途中で重なった韓国国会議員選挙に統合進歩党・比例代表で立候補した氏の裁判が、いつの間にか氏個人と統合進歩党つぶしという政治的裁判にすりかえられ、担当検事が検事長に交代する中、検察側は氏がたまたま収監中に出会った左翼死刑囚(当時)を証人として出廷させ、証言させるという70〜80年代を彷彿とさせる異例な展開になりました。 
 結審するにあたり行われた最終陳述を、氏は「…、いつの間にか政治的裁判に変貌したこの再審を通じて、母国である大韓民国の悲しい現実にあえて正面から立ち向かおうと思います、・・・ここは私の祖国です。愛する祖国への信頼を決して捨てることはないでしょう。」という言葉で結んでいます。判決は2013年1月24日です。

 11月30日には、金鐵佑(キム・チョル)博士(東京・元浦項製鉄副社長 86歳)の判決公判が開かれ、スパイ罪等はすべて無罪となりましたが、北朝鮮に行ったこと(弟さんに会うため)については、執行猶予付きの2年6ヶ月の有罪となりました。具末謨先生の判決では北朝鮮に行った事実を認定しながらも無罪の判決がありましたが、11月26日に行われた「鬱陵島事件」のイ・ソンヒ先生の再審裁判の判決公判では、裁判長は北朝鮮に行った事実について3年の実刑判決を下しました。イ・ソンヒ先生は在日韓国人ではなく、日本留学時に北朝鮮に行ったとされました。 金鐵佑博士の判決により、北朝鮮訪問の事実に対して、「無罪」・「執行猶予付き有罪」・「有罪」の3例の判決が出たことになります。
 在日韓国人でもある金博士は、韓国の産業の基礎である浦項製鉄をマスタープランから建設、運営までの中心的役割を果たし、韓国産業界に大きく貢献しました。在職中に検挙され7年の刑期を終え出所すると、当時の大統領だった全斗煥に「祖国発展のために」と請われ、復職を決断されました。そんな金博士の歴史的な功績に目を閉ざした世界企業「POSCO」と、それを許した韓国社会に対し、社会的責任を追及する上でも重要な判決といえます。 

「在留資格の原状回復」
 日本国内では9月28日(金)に再審無罪確定者を中心に、二人の日本人弁護士と共に法務省において「在留資格の原状回復を求める対法務省交渉」がありました。参席された東京の金元重(キム・ウォンジュン)氏の報告では、法務省入国管理局から菅宮真樹参事官、北山一輝参事官室補佐官が出席した中で行われました。入国管理局側の話としては、大きく3点からなり、

1.現行法の解釈・運用により特別永住者としての地位を回復することはできない。
2.当面は、韓国における再審を含めた手続きの進捗を見守ることとし、全体が決着した段階で、日本側の対応を検討することが適当と考えている。
3.他方、入管特例法附則第60条第3項では「法務大臣は、特にわが国への定着性が高い外国人について、その歴史的背景を踏まえつつ、その者の本邦における生活の安定に資するという観点から、その在留管理のあり方を検討するものである」という点を踏まえ、事情に応じてどう対処していくのかということについても、これからの課題として検討する。
 というものでした。李東石氏が帰日して以来、「在留資格の原状回復」については、以前から当事者や支援者など、多くの人が法務省交渉を行って来ました。再審無罪確定者が増える中、同友会でもこの問題についていろいろ協議してきましたが、李東石李宗樹らを担当者として、これからもこの問題に取り組んでいくことで合意しました。

「在日韓国人再審弁護団歓迎会」
 10月13日、韓国から在日韓国人再審弁護団(団長・イ・ソクテ弁護士、総5名)が来阪しました。イ・ソクテ弁護士から、在日の裁判における現状報告があり、今後の展望についてもお話がありました。今回の弁護団には新たにソン・サンギョ弁護士が加わりましたが、ソン弁護士は静岡在住の金淳一氏と面談しました。同友会では弁護団の歓迎会を韓国料理店「アジャ(柳英数氏経営)」で行いましたが、多くの方が駆けつけて下さいました。この場を借りて、厚くお礼申し上げます。

「韓国国内では」
 10月12日、韓国の新聞に「チュ・ジェヨプ、ソウル陽川区庁長(57)が過去の拷問加担に絡む名誉毀損、誣告罪などで有罪判決(懲役1年3月)を受け、法廷拘束された」という記事が大きく報道されました。
 彼は過去、国軍保安司令部に勤務した元捜査官で、ソウル南部地裁は、彼が「1985年に軍に勤務中、在日韓国人男性(69)=岡山市=に「北朝鮮スパイ」との自白をさせるために、男性を不法に連行し、逆さづりにして顔に水を掛け、呼吸を困難にしたり、電流を体に流す拷問をした」と認定しました。
 区長は当然選挙で選ばれるわけですが、首長の過去の拷問加担を裁判所が認めるのは極めて異例だそうです。ただ、拷問の行為についてはすでに時効が成立しており、罪に問われませんでした。

 この判決は、無罪が確定している尹正憲(ユン・ジョンホン)氏が、韓国内で進めている告訴にも影響を与えるものと思われます。
 氏は10月19日、午前10時半から韓国民弁連事務所にて、氏の裁判に検察側の証人として出席した元保安司令部捜査官、高炳天(コ・ビョンチョン)の「拷問は一切していない」という陳述の偽証を問うための告訴を行うべく、記者会見を開きました。韓国側新聞記者や日本の新聞記者、我々の仲間が参席する中、在日弁護団から三人の弁護士を交えての会見でした。
 高炳天は当時、階級が陸軍准尉、国軍保安司令部・捜査二係・学園班の班長で、彼の手で多くの在日留学生スパイ事件が捏造されています。

 また10月20日、ソウルの京郷新聞社のビルにある民主労総15階教育院において、「維新体制と在日韓国人留学生スパイ事件の真実と意味」と題する韓日合同学術会議が開催されました。
 この行事は維新憲法が発布された10月17日から当時の大統領だった朴正煕が射殺された10月26日までを維新体制を再考する期間として行われる行事の中のひとつとして行われました。在日韓国人留学生事件を公式の場で論議した、おそらくはじめての試みだと思われます。
 在日側からは「維新体制と在日同胞スパイ団事件の法歴史的考察」と題して講演された立命館大学特任教授・徐勝、在日同胞留学生スパイ団事件による被害者の証言として、金整司(キム・ジョンサ、NPO法人・在日韓国良心囚の再審無罪と原状回復を勝ちとる会・理事長)、金元重(千葉商科大学教授)の三氏が出席されました。
 韓国国内からも韓勝憲(ハン・スンホン)弁護士をはじめ、そうそうたる民主人士が数多く出席され、大成功のうちに幕を閉じました。

 一方で、10月6日、韓国・釜山映画祭で金槿泰(キム・グンテ)氏をモデルにした「南営洞 1985」という映画の試写会が行われました。
 金槿泰氏は、盧武鉉政権下で保健福祉部長官を務め、次期大統領選挙の有力候補の一人とまでいわれた人で、その後、民主統合党の常任顧問に就任しました。1970年〜1980年代にかけて民主化運動に従事し、指名手配、投獄、拷問といった弾圧を相次いで受けています。過去の拷問の後遺症に悩まされ、それが原因でパーキンソン病を発症したといわれています。2011年12月、ソウル大学病院で死去しました。
 映画は、治安本部(警察)・南営洞・対共分室で彼に対して行われた、22日間にも及ぶ生々しい拷問や拷問被害を取り上げています。
 試写会後、映画祭に出席したイン・ジェグン民主統合党議員(故金槿泰氏夫人)が、主演を演じたパク・ウォンサン氏を引き寄せ、強く抱きしめると、840席をぎっしり埋めた観客は、惜しみない拍手を送ったそうです。
 またソウルでは、拷問をなくすとともに、拷問被害者を救済するための「金槿泰治癒センター」の設立に向けた取り組みも進行中です。身をもって拷問を経験した我々もセンター開設の実現を切に願います。

 多くの被害者が再審裁判で勝利する中、韓国国内で拷問に対する認識が変わりつつあります。再審を闘い、勝利し、過去の不当を世論に訴えることが、韓国の民主化が熟成していく一助になっているのではないでしょうか。また在日である我々が声を上げることで在日政治犯の存在を本国に知らしめ、本国の民主化を加速させる一助にもなっていると願う次第です。

 これから寒い季節がやってきます。みなさまも健康に留意され、あわせて温かいご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
 2013年が皆様にとってご多幸の一年となりますよう、同友会一同心よりお祈りいたします。

 また、カンパのお願いをさせて頂きます。恐縮ではございますが、なにとぞご理解、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
在日韓国良心囚同友会・一同

■ 郵便振替口座:「00910−8−70544 在日韓国良心囚同友会」 ■