《ヨンデネット大阪/学習集会報告》
 真実の歴史認識と清算で、
アジアの人々との共生の出発を
市民の会 井上 和男 

 今年は戦後60年目の年であり、国内外で日本の戦争責任や戦後補償のあり方など数々の問題を、もう一度見直す取り組みが展開されている。
 ヨンデネット大阪(日朝日韓連帯大阪連帯会議)の主催により、「―真実の歴史認識を求めて―過去の清算を行い戦後60年の今年をアジアの人々との共生の出発に」と題した集会が6月1日に行われた。
 この集会では、ヨンデネット大阪の共同代表である空野佳弘弁護士と、龍谷大学の戸塚悦朗氏から問題提起を含めた講演があり、その後、両氏を交えての討論を行い、戦後60年の今をどう認識し、何をなすべきかをともに考えた。
 
空野弁護士からは、まず今年3月〜4月にジュネーブで行われた第61期「国連人権委員会」に出席された時の報告があった。
 国連人権委員会は、毎年この時期に世界53ヵ国の政府代表やNGOが参加して、数々の問題がテーマごとに論議される。空野弁護士は国連という国際的な場で、アジアの各国が日本の戦争責任を追及する数々の発言を紹介し、それらに対して日本政府は過去の問題についてはあまりくり返さないという態度に終始していた様子が報告された。
 
「人種主義・人種差別」「世界各地の重大人権侵害」のテーマでは、北朝鮮政府代表から過去の人道に対する罪を日本政府はどうやって認めるのかなどの鋭い追及があり、またオランダのNGOからも軍隊慰安婦問題での発言の報告があった。
 
「女性に対するする暴力」のテーマでは、軍隊慰安婦問題をめぐって韓国政府が発言し、これに対して日本政府が反論し論争となったという。これまで韓国政府はあまり明確に態度表明をすることはなく、これほど積極的な発言はこれが初めてのことで非常に驚いたと、空野弁護士は語っている。

韓国の発言と日本の反論
【韓国政府の発言】

 今年は戦後60周年であり、過去の過ちに学ばなければ悲惨な歴史を繰り返すことになる。昨日、日本政府が検定を通過させた歴史教科書が、日本による過去の重大な人権侵害を削除していることに重大な関心を有する。特に日本軍による強制動員や「軍隊慰安婦」の奴隷化問題である。この問題に関するわが国の繰返しの要求を日本政府が無視し、責任を否定している。記憶は短いものかも知れないが、被害女性の苦痛は続いている。彼女たちが亡くなる前に日本政府が過去を正さなければ、歴史の不名誉となる。そのチャンスの窓はまもなく閉じようとしている。日本政府は過去を閉ざそうとしている。真相究明と真摯な謝罪をしなければ、世界との和解はできない。
【日本政府の反論】
・1995年の村山談話で示した「アジアの人々へ深い自責の念、軍隊慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復のために真摯にお詫びする」姿勢に変化はない。
・軍隊慰安婦についての国際法上の責務は果たしているので、道義的責任から「アジア女性基金」を行った。
・日本政府は教科書を編集しているものではない。
【韓国政府の反論】
・クマラスワミ女性に対する暴力特別報告者やマクドゥーガル戦時奴隷特別報告者の報告書で、日本政府に対して軍隊慰安婦問題での法的責任・補償・責任者の処罰を勧告している。
・日本政府は学習指導要領を作りの検定を行い、教科書の採否は政府が行っている。
 その他、参加した政府・NGOから、この問題に関わって日本政府を批判する発言が続いたという。
 
空野弁護士は、今回の会議では韓国政府の積極的な発言が際立ったこと、また韓国などはマスコミがジュネーブに常駐してリアルタイムに国民に情報提供しているが、日本のマスコミはこのような国連での動きを報道していない。そのため、このような情報が国民に伝わらない点が問題であると指摘されている。

 国連報告に続いて、今年5月に東京で開催された
「国際連帯協議会(南北朝鮮・中国・台湾、フィリピンなどが参加)」に関して、この会議でも韓国代表の発言が非常に注目されたと、次のような報告があった。
 
韓国では、昨年「日帝強制占領下強制動員被害真相究明等に関する特別法」が成立し、日帝時代の被害調査が始まり、現在までに被害申告が13万件を超えているという。さらに、浮島丸沈没問題や靖国神社合祀問題の調査も決定していて、すでに調査が始まっている。また、強制連行被害者の遺骨収集問題もやっと日本政府が調査を始めた。遺骨問題は、単に返せばいいという問題ではなく、「何故死んだか、責任はどこにあるのか」などが判明しなければ遺族は納得しなのではないかと指摘されている。
 次に、最近の中国の「反日デモ」について、日本では中国は独裁政権=共産党政権でだから、政府に操られているのではないかとの論調が強いが、そうではない。中国の民衆は今まで発言できなかったのが、民主化されてきたが故に、逆に今まで思ってきたことを正面から発言できるようになった結果ではないか。デモの先頭に立っている人は民主化も闘っている人々であるという。

 最後に
空野弁護士は、次のように報告を締めくくられた。
 今後の私たちの取り組みが問われてくるけれど、私たちはまず意識的に過去に向き合い、過去から学びとろうとする力を身に付けることが必要だ。今、過去の様々な問題が噴出しているけれど、本来、日本社会が戦前からずっと引きずっているものもあって、これらは巨大である。向き合うのは非常に大変だけれど、これに立ち向かう努力をすべきであるとまとめられた。

 続いて
戸塚氏から、戦後60年が経過した今、どうして加害国・日本の責任を問うのかを基調に、講演が行われた。
 戸塚氏は、最近の中国の「反日デモ」について、「昨年、中国で開催された国際会議(「抗日戦争」史実保存世界連帯主催)に参加したときから予想されたことであった」として、日本では、マスコミを含め、この「反日デモ」に対して日本を被害者という意識で捉えており、なぜ起こっているのかまで思い至らないのが現実であるとした。
 
中国では、もともと日本軍による加害行為を知らない人がほとんどいないし、その上に昨年の国際会議では世界中の研究者が集まって様々な報告を行い、それらを戦後60年である2005年に解決しようと強調していた。このような中国の状況の変化があり、その一つの結果が最近の動きであるという。これは、韓国についても同じで、空野弁護士の報告にもあったように、最近は公然と日本政府に対して加害責任を追及するようになってきている。
 このような
中国、韓国の動きに対して、過去の侵略行為を反省しない日本政府・自民党の態度は、きわめて横暴である。戸塚氏は、靖国参拝をはじめ数々の問題を指摘するとともに、この様な日本と中国との認識の差について、加害者側と被害者側の間でのもの事に対する認識の仕方が違うためであり、このような事態の克服のためには、真の友好関係の上に平和で持続的な繁栄を続けるアジアを築いていこうと考えるかどうかが分かれ目になると思う、と述べられている。
 
戸塚氏は、これまで述べたような視点に立って、過去を清算する「立法」成立の意義を強調された。戦後、ドイツをはじめ韓国・台湾・アメリカなどの国々で過去の清算を立法化しているが、日本では今だになされていない。
 戸塚氏らは、2001年に「過去清算法案」をはじめて提出し、今年2月28日に6回目となる
「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律(案)」を国会に提出している。(民主・共産・社民四党共同提出)
 このことは一般にはほとんど知られていないが、これは日本における最初で唯一の「過去清算立法」である。この法案の提出に至った経過からして、「アジア女性基金」では解決できなかったことを、この法案が通れば解決することができると確信する。ぜひ、この法案の内容・存在を皆さんで広めていただきたいとされた。
 最後に、今後の取り組みの基本として、第1に、過去清算立法成立に向けた継続した取り組み。第2に、アジアの人々への人権侵害、加害者としての立場、そして、これらのことの和解は成立してないことを忘れてはいけないと。第3に、歴史の真実に向き合いう努力をすること。第4に国家を超えた人類としての視点、人権の視点をすべての認識の基礎に据える必要があること。
 そして、戸塚氏は今後、アジアの人々との和解が進展するかどうかは、私たちをはじめとした日本の人々の草の根運動が決定すると思うと述べられた。

 お二人の講演の後、ヨンデネット大阪・事務局長の林氏を交えて
ディスカッションに入った。
 討論の中で、
戸塚氏は「過去清算法案を提出する過程での一番の障害は、連合労組の反対であった。…民衆の力で国会を動かし、法案を作ろうという意識がない。この辺が韓国と日本の大きな違いだ。…この法案のことを広汎に知ってもらい、そういう意識を持ってもらう必要がある」と。
 また、教科書問題に触れて、「これまで日本政府は、あいまいな言葉で何度も「謝罪」を表明してきたが、何に対して謝罪するかという根本的なところを教科書から排除してきている。これは、国際的な裏切り行為であり、国際法違反だ」など、鋭く指摘された。
 
空野弁護士からは、最近の韓国政府の対日政策の変化について、「小泉首相は廬武鉉大統領の新対日政策について、韓国国内向けのものだろうと軽い認識を示しているが、これは根本的に間違っている。韓国では、ここ数年、過去の歴史の見直しが積み重ねられており、光州事件・済州島四・三事件、そして「親日派真相究明法」など、歴史をトータルに見直すことが進められている。必然的に、日本との関係もトータルに見直そうとしている。その結果が新しい対日政策だ。
 廬武鉉大統領は、加害者側がきちんと謝罪する措置をとり、その上で、それを被害者側が許すという不変的な方式による和解を提案している。そこのところを踏まえる必要があるだろう」と付け加えられた。
 また現在、進められつつある強制連行被害者の遺骨収集について、「これをきっかけに、事実の解明を進めなければならないし、あいまいに終わらせてはいけない」と強く訴えられた。

 集会では、空野氏とともに国連人権委員会に出席し、遺骨収集問題について発言した大学生
リュ・ユジャさん、戦後補償を求める国際署名に取り組むVAWW―NETジャパンの仲間、扶桑社の歴史教科書採択阻止に取り組む仲間からアピール、並びに行動提起があった。

 戦後60年を経て、日本の加害責任を問われたとき、私たちがどれほどのことを答えられるだろうかと考え、あまりにも知らないことが多いことを改めて自覚した。
 歴史の真実に正面から向き合うには、日頃から意識していないとできないのだろう。一方で、教科書から歴史の真実を消し去り、意図的に次の世代に知らせない、いや偽りの歴史を教えとすることは、まさに犯罪的行為でしかない。
 学習集会に参加して、今一度、歴史の真実に向き合う努力が、私たちに問われていることを強く感じました。